
水戸市の弘道館は、茨城県を代表する観光名所。江戸時代につくられた水戸藩の学校です。
弘道館事務所主任研究員の小圷のり子さんに秋の弘道館の楽しみ方を尋ねると、「周辺も一緒に散策しながら楽しんでみては」と、アドバイスをいただきました。小圷さんおすすめの場所ベスト3をご紹介します。
弘道館は、水戸藩の第9代藩主徳川斉昭が開設した藩校で、水戸城内の三の丸にありました。今回の散策では、藩校当時の広大な敷地や、復元された水戸城の大手門など、かつての城の面影が残る場所を巡ります。
第3位
水戸城のシンボル「大手門」
おすすめの場所第3位は、弘道館の向かい側にある水戸城の大手門です。
水戸城は、徳川御三家の一つ、水戸徳川家の居城として栄え、その正門にあたる大手門は、高さ約13メートル、幅約17メートル。
土塁に取り付けた城門としては国内屈指の規模だそうです。
大手門は荒廃により明治期に解体されましたが、2020年に復元されました。
見上げると圧倒されるような大きさで、当時の水戸城の広さも想像できます。
復元から5年が経ち、組み上げた木材の色にも、より風格が増しました。夜はライトアップされ、昼間とは異なる姿を楽しめます。
「藩主の徳川斉昭や、その子で弘道館で学んだ慶喜もくぐった門。
弘道館に通っていた学生たちも、この門をいつも見ていたはず。
当時の情景に思いをはせながら、ぜひ大手門をくぐって弘道館へと歩いてみてください」と、小圷さん。
「迫力に圧倒されます」
水戸城大手門の前で、小圷さん
水戸城の「お堀のイチョウ並木」
第2位は、三の丸の空堀周囲にあるイチョウ並木。
弘道館の入り口から園路を歩いて5分ほどの場所です。
この空堀はかつて、水戸城の外堀としての役割を持っていました。
空堀とともに築かれた土塁には、現在、大きなイチョウの木が並んでいて、「お堀のイチョウ並木」として、地域の人たちに親しまれています。
「お堀のイチョウが紅葉すると、燃えるような黄金色で、周辺までもがぐんと明るくなる。思わず見とれてしまいます」と、小圷さんは話します。
実は、藩校当時の弘道館の敷地は、この空堀や土塁まで広がり、現在の県三の丸庁舎や県立図書館も含まれていたそうです。
小圷さんは、「弘道館の敷地は10.5ヘクタールもあって、藩校としては日本最大規模だったんです。お堀まで歩くと当時の広さを体感できますよ!」と提案してくれました。
10.5ヘクタールは、東京ドームの大きさにすると約2.2個分になります。

紅葉時期のお堀のイチョウ並木

水戸城の土塁と空堀は県指定史跡

復元された土塁も見学できる
弘道館の「聖域」
おすすめの場所第1位は、弘道館の「聖域」とされる一帯。弘道館本館の西側に位置し、藩校当時の中心部にあたります。
聖域には、弘道館を開いた斉昭の思いが込められた建物や石碑が残ります。
小圷さんは、「弘道館は、新しい時代を担う、優れた人材を育成する場所としてつくられた。聖域を歩いて、そんな斉昭の熱い思いに、ぜひふれてほしい」と、すすめます。
代表する建物の一つが、八角形をしたお堂「八卦堂」。
中には、「弘道館記碑」という大理石の石碑が収められ、弘道館を建てた目的や教育方針を示した「弘道館記」が刻まれています。
風雨から守るために「八卦堂」が建てられましたが、八角形の形には、斉昭の宇宙観が反映されているそうです。
中の石碑は扉の小窓からのぞくことができます。

斉昭の宇宙観が込められた八卦堂
「要石歌碑」は、斉昭の自筆で、日本人としての進むべき道を詠っています。
その両脇には、背の高いクスノキが歌碑を守るように2本立っています。
ここは、聖域の中でも、小圷さんがもっとも好きな場所。
「クスノキからは生命力が伝わってくる。空気が澄んでいて、心が洗われるような気がします」

歌碑を守るように立つクスノキ

根も広く張っていますが、樹齢は不明
また、聖域内の建物や石碑は、建てられている位置や方角にも意味があり、「鹿島神社」と「孔子廟」は、「神儒一致」という建学の精神を表しています。
さらに「鹿島神社」は本社の鹿島神宮と同じ北向きに、「孔子廟」は孔子の出生地・曲阜の方角である北西向きに建てられています。
小圷さんは、当時の弘道館の平面図「弘道館全図」を見ながら、斉昭が弘道館の設計に込めた思いを解説してくれました。
「弘道館の設計には、まだ明らかになっていないこともあります。これからも発見がありそうですね」。

北向きに立つ鹿島神社
孔子廟の屋根には
鬼龍子という霊獣が置かれている

「弘道館全図」を持つ小圷さん
インフォメーション
弘道館
- 住所
茨城県水戸市三の丸1-6-29 - 電話番号
029-231-4725(弘道館事務所) - 観覧時間
9時00分から17時00分(10月1日から2月中旬は16時30分まで。梅まつり期間中は原則17時00分まで) - 休館日
12月29日から31日 - 観覧料
大人 420円、小人・満70歳以上 210円